ミカたちはシルフ領へ急ぎ、今度はルグルー回廊に向かっていた。ルグルー回廊はシルフ領の中にある古森の中にあると言われている。だが、シルフのものがいない三人は、誰もその場所がどんなところなのかを知らなかった。
「地図ではこの森の中にあるとしか書かれていませんね」
上空から、下に広がる古森を見下ろしながらユカは残念そうにつぶやく。
「よし、じゃあ、降りよう。すぐ降りよう。もう空は十分だよ~」
空の上だと元気の出ないミカは、ユカにしがみつきながら必死にそう言う。
「……こんなに鬱蒼とした古森だと、場所を把握していなきゃ空からじゃわからないし、降りたほうが早いかもね」
「おぉ! ユウ! いいこと言うじゃん! 人間に二足の足があるのは、地面を走るためにあるって偉い人も言ってたんもんね!」
「……誰の言葉だよ」
「もちろん私の言葉! じゃあ、いっくよ~!!」
急に元気になったミカは、ユカから離れて地上へとグランディングし始めた。
「現金な奴だな」
「ふふふ。でも私は楽しいですよ。ユウはこのパーティー、楽しくはないですか?」
落ち着いた声でそう言われ、ユウは急に恥ずかしさがこみあげてくる。
「……し、知らないよ。そんなの! 行くよ!」
ユウはそう言うと慌ててミカの後を追ってグランディングを始めた。
「ふふ。ミカもユウも良い人でよかった。このイベントが終わったら、二人に彼女を紹介したいな」
ユカは一人でそう言うと、二人の後を追ってグランディングを始めたのだった。
シルフ領の古森の中に入ると、サラマンダー領の古森よりも若干気温が低い。というのも、風が強いために体感温度としてそう感じるのかもしれない。
「よっしゃー! やっぱり地上だと元気百倍だよね!! さっさとルグルー回廊を見つけてスタンプを押すよ~!!」
二人が地上に降りるのを確認すると、ミカは急に走り出してしまった。
「お、おい! 勝手に暴走するなって!」
「待ってください~! ミカ~!」
走り出したミカを追いかけて、ユウとユカも慌てて追いかけた。サラマンダー領の時のように三人で走っていると、目の前に石の塊が姿を現した。
「なんだこれ?」
「わかんない。でも、これがあると向こう側に行くには時間がかかりそうだよね」
「まぁ、そうだね」
「よし、壊そう」
「はい!?」
あまりに短絡的な回答にユウは頭痛がした。だが、ミカは本気なようで呪文を唱えようとしている。
「おいおい、ちょっと待てって……」
「お二人とも~! ちょっとこっちに来てください!」
岩を調べていたユカが少し離れたところから声をかけてくる。ミカとユウは顔を見合わせてから、ユカの近くに行くことにした。
ユカの目の前には、岩に切り込みが入っている部分があった。切り込み部分からは風が吹いてきている。どうやらこの向こうに通路があるらしい。だが通常は、出入り口があったということを、ユウは知り合いのプレイヤーから聞いていた。
「これって……」
ユウは不自然だと思い口にするが、先にユカが思いがけない言葉を発する。
「おそらく引き戸になっていますね」
「引き戸? え? これドアなの?」
ミカはそう言うなり、隙間に指を入れて右側に力を入れる。ユウが「何か変だ」と伝える前に……。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
目の前の岩はあっけなく右側に吸い込まれ、今までなかった入り口が出現した。と、同時に目の前には一体のオークが戦闘体勢で立っていた。
「……!?」
「……っ!?」
突然のモンスターの登場に、ユカとユウは固まってしまう。第一のチェックポイントの時には、スタンプの所にしかモンスターが存在していなかったので、油断していたというのもある。
だがどんな時でも緊張をしない人物が一人。
「モンスター覚悟~!!!」
ミカは二人の様子を気にもせずに、たった一人でオークに立ち向かっていく。
「わっばかっ!!」
ユウは感情では止めなければと思っても、身体がいうことを聞いてくれない。隣にいるユカも同じようだった。
「ォラァァァァァッ!!」
ミカは剣を構えてオークを切りつける。
「グアッ! グルルルルッ」
だが一撃ではオークのHPを少ししか削ることができない。
(あいつ一人じゃダメだ……動けボクっ)
ユウは一生懸命に自分で自分に声をかける。だが、ユウのトラウマが脳裏に浮かび上がってしまい、余計に動くことができなくなってしまった。
(何で今になって、あの時のことが頭をよぎるんだよ……)
ユウの姉は、あの忌々しいSAO事件に巻き込まれて死んでしまった。閉じ込められた人たちの多くは、二年後に目を覚ましたが、ユウの姉は一年もたたずにこの世を去った。その時は、もう二度とこんなゲームなんてしないと思っていたが、姉との楽しい思い出もあるゲームを棄てることはできなかった。
「ミカっ! 今、回復魔法をかけます!!」
「っ!!」
ユウよりも先に動けるようになっていたユカが、いまだ戦っているミカに向かって回復魔法をかける。
「サンキュー! ユカ。これで元気一千倍よ! 行くわよ~!!!」
いつの間にかオークのHPはレッドゾーンに来ていた。ユウが過去を思い出している間に、ミカが剣で攻撃をし続けていたおかげだろう。
「これで終わりだ! くらえぇぇぇぇっ!!」
ミカが大降りに剣を振りかざすと、オークの左肩から右腹へと攻撃が当たり、HPがゼロになる。
「ぐっぎゃぁぁぁぁっ!!!!!!」
絶叫の悲鳴を上げると、オークは目の前から消え去った。
「やったね!」
ミカがガッツボーズをとっていると、ユウがミカの傍に近づいていく。
「ごめん。ボク……戦えなくて」
「……」
ミカは全く気にしていなかったが、しょげているユウを見てニッコリと微笑む。
「じゃあさ、ミカ姉って呼んでよ。そしたら今回のことは許してあげる」
「え……」
予想外の言葉にユウは言葉を失う。
「でも今、ボクが一緒に戦っていたら、あんたが怪我なんかせずに済んだのに……そんなことでいいの?」
「そんなことじゃないよ。私にとっては重要なことだもん」
そう言われてしまっては、ユウは返す言葉を見つけられない。
「じゃ、じゃあ……ミカ姉」
「っ!!!」
ミカは心が最高潮に震えるのを感じて、その衝動のままユウをギュッと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!?」
「やっぱり可愛い!!」
ミカはそう言ってユウを抱きしめて喜んでいるが、ユウはそれどころではなかった。これがVRMMOではないにしろ、自分が女性に抱きしめられているというのを視覚としてパソコンで見るのは、多感なお年頃のユウにとっては妄想が止まらなくなってしまう。
(これがVRMMOじゃなくてよかった……)
そんな事を思いながら気持ちを反らし、平常心を保つユウだった。
その後、三人はルグルー回廊の中をユカの先導で無事に最奥にたどり着くことができた。そして第一チェックポイントと同じく、スタンプの前にはオークキングがスタンプを守っていた。
「これは……ゴブリンみたいな感じではなく、本気のボス戦という感じですね」
「……あぁ、けど、入り口のオークの時みたいに、もう怯んだりしないって!? おい、ミカ姉!?」
ユウとユカが話している間にも、ミカは一人オークキングに向かって走り出していた。
「こいつは、オークキングなんだぞ!?」
「そんなのわかってるわ。だから先手必勝よ! おぉおぉぉっ!!!」
ミカはユウの言葉を気にせずに、一人突っ込んで行き、いきなり切りつけている。
「くっ! 強い敵ほど、作戦を練ったほうが良いのに。ユカ、補助と回復魔法を頼む。ボクはミカ姉の後を追うよ」
「うん。ミカのことよろしくね」
ユウが少し逞しくなったなと思いながら、ユカは呪文を唱え始める。力任せのミカには防御力アップの魔法を。俊敏力が高いユウには攻撃力アップの魔法を。
ミカの暴走があったものの、三人は何とかオークキングを倒すことができた。ミカは相変わらずテンションが高いままだったが、このパーティーはこのままで大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚えるユウだった。
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執筆:如月わだい
企画:スカイプ通話しながらオンラインゲームWiki
ラーミア, yayoi shirakawa ,柊正一
挿絵:柊正一
原作:ソードアート・オンライン
第六話「第三チェックポイント」の連載予定は四月五日頃になります。お楽しみに!

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